『社会科学の哲学入門』序章

序章 社会科学の哲学を学ぶとはどういうことか #

in: 吉田敬『社会科学の哲学入門』勁草書房、2021年

1. 社会科学の哲学とは何か #

  • 本書の目的は「英語圏を中心として国際的に研究が進められている、社会科学の哲学という分野がどのようなものであり、どのような議論が行われているのかを紹介すること」(1)。英語圏というところが1つのポイントなのだろう。
  • 本書で扱われるのは、「社会哲学」ではなく「社会科学を対象とした科学哲学」(2)。「社会哲学」と無関係ではないとされているが、むしろ、これらが重なるところに、おもしろい論点がありそうな気もする。社会とかかわってくるなら、規範的問いは避けられないだろう(社会科学の哲学でも規範的議論は行われているとされている)。また、「社会哲学」であれば、英語圏のみならずヨーロッパ圏にも長く広範な蓄積があるだろうから、その点からも考えるべきところ。

2. 社会科学の哲学が研究対象とする社会科学とは何か #

  • 主な研究対象と考えられているのは「社会学、人類学、政治学、心理学、経済学、歴史学」(4)。
  • 法学は社会科学に入れられておらず、その理由は、大学制度の歴史にあるとのこと。法学は大学が12・13世紀のヨーロッパに誕生したときから制度的に確立していたが、上記の社会科学が大学のなかにきちんと位置づけられたのは19世紀以降。「社会科学」という用語それ自体の誕生も19世紀初頭。
  • 本書ではこのあたりの学問分野の区分とその歴史的社会的背景については、あまり深入りしないようだが、これはこれで、かなり重要な研究テーマになるだろう。とはいえ、それは、どちらかといえば歴史学ないし社会科学それ自体の反省的研究になり、「科学哲学」のテーマにはなじまないかもしれない。

3. 社会科学の哲学をあえて論じるのはなぜか #

  • 筆者によれば、従来の科学哲学は、自然科学を研究対象とすることが多く、社会科学はほとんど論じられなかった。その背景に、社会科学が科学として劣っているという「常識」があったと筆者はみている。この「常識」を疑い、「社会科学も哲学的な考察に値する立派な科学であることを示したい」(9)とされる。
  • なんとなく、自然科学と社会科学の違いをどう捉えるかが焦点になる気がする。それは、研究対象にかかわるのはもちろん、それと深く関連して方法にも関係するのだろう。少し敷衍すると、そもそも「科学」なるものは何なのかという問いにもつながってくるのかもしれない。

4. 社会科学と社会科学の哲学はどのような関係にあるのか #

  • 社会科学に関する哲学的考察がどうして必要なのかという問いに対し、筆者は、社会科学と社会科学の哲学は異なる役割を担うという。一般に科学の営みは既存の知識を前進させること。これに対し、科学哲学の役割は、その知識の前進とはどういうことか、またその進め方に問題はないかを検討することとされる。
  • ただ、この説明の類比的例として、大学の授業とそれに対する学生の評価を挙げているのは、あまり適切ではない気がする。というか、この例が当てはまるのなら、わざわざ科学哲学を持ち出す必要はなく、専門外の人であれば誰でもよくなる。なぜ科学哲学なのかがまだわからない。
  • また、科学哲学の役割とされている内容それ自体、本来なら、対象となる科学がみずから探究すべきことにも思える。自然科学は違うかもしれないが、社会科学であれば、いわばその基礎理論に含まれるのではないか。
  • あるいは、科学の分業の深化ないし専門分化や、短期的成果の追求の傾向という社会的背景が実はあると言えるのかも。つまり、基礎理論をその科学内部では誰もやらなくなっている?

5. この本が必要なのはなぜか #

  • 本書の必要性について、海外における社会科学の哲学が日本に十分に紹介されていないことを説明している。本書は「日本人によるはじめての社会科学の哲学入門書」(11)とされる。

6. この本の構成 #

  • 本書は6つの問いを検討するかたちで構成されており、それらの問いは英語圏で出版されている入門書でも標準的とのこと。

読書案内 #

  • 読んでみたいものをメモ。日本語で読めるものに限定。
    • 伊勢田哲治(2003)『疑似科学と科学の哲学』名古屋大学出版会
    • 戸田山和久(2005)『科学哲学の冒険』NHK出版
    • 市野川容孝(2006)『社会』岩波書店
    • 隠岐さや香(2018)『文系と理系はなぜ分かれたのか』星海社

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